せっかく運動するなら、より効果的な方法で
ここでは、有酸素運動を実践する際に、どのように運動強度を決定すればよいのか、簡潔かつ実践的にお伝えします。
これから運動を始めようという方や、いつもの運動にもう少し科学的テクニックを追加したいという方は、ぜひ参考にしてみてください。
本稿の最後に重要な注意点も記載していますので、以下の方法を参考にする際には、必ず最後まで目を通すようにお願いします。
心拍数を参考にする方法(カルボーネン法)
参考にすべきは、ズバリ、脈拍数です。
厳密に言えば、心拍数を参考にします。
心拍とは文字通り心臓の拍動であり、血液を全身に巡らせるために欠かせない活動です。
この心臓の拍動によって送り出された血液が動脈に圧力をかけ、動脈でも拍動が生じます。これが脈拍です。
これだけ聞くと、心拍と脈拍は同じものとして扱ってよいのではないかと思われるかもしれませんが、完全に同じものとして扱うのは危険です。
というのも、心臓は正常から逸脱した拍動を生じることがあり(不整脈)、なかには動脈の拍動に反映されないものがあり得るからです。
基本的には心拍≒脈拍なので、脈拍を運動強度の指標にすることはできるのですが、心臓の病気を指摘されている方は特に気を付けてください。
さて、話を戻します。
心拍数とは、1分間に生じる心拍の回数です。
そして、運動時の心拍数は、運動強度とほぼ直線関係にあることが明らかになっています1)。簡単に言えば、運動強度が上がると、それに比例して心拍数が上がるということです。だからこそ、心拍数(≒脈拍数)を運動強度の指標として活用することができるわけです。
では早速、具体的に心拍数を使って運動強度を設定してみます。
以下の数式を使って、目標心拍数を算出しましょう(面倒くさがらないで)。
目標心拍数={(220ー年齢)ー安静時心拍数}×運動強度+安静時心拍数
順番に確認していきます。
まず「年齢」。
これはそのまま、あなたの現在の年齢を入れてください。サバは読みたくても読みません。
続いて「安静時心拍数」。
ここには、リラックスした状態で測定した心拍数を入れます。
心拍数や脈拍数を測定できるデバイス(スマートウォッチ等)をお持ちの方は、その数値をそのまま使っていただいて構いません。
デバイスをお持ちでない方、あるいはデバイスの測定精度が心配な方は、以下のように、手首の動脈で拍動を触れてみましょう。
測定する腕は、やりやすいほうで構いません。
片側の人差し指・中指・薬指の3本の指の腹で、反対の手首の親指側(下の画像の緑色部分)あたりを優しく触れます。
脈の拍動が触知できればOKです。
触れられたでしょうか?
では、以下の手順で安静時の脈拍を計りましょう。
- 予め時計を用意する。デジタル表示の方が正確な時間を計りやすいのでお勧め。
- 横になる又は椅子に座って、ゆっくりと呼吸を繰り返しながら、5分間リラックスする。
- 上述した方法で15秒間、脈をカウントする。
- 15秒間の脈拍数を4倍する。これにより1分間の脈拍数を計算できる。
デバイスを利用する方は、2.の後、デバイスに表示されている数値を確認すればOKです。
以上で安静時心拍数の数値が得られます。
最後に「運動強度」です。
ここには40%から85%程度の範囲から、任意の数字を入れます(アメリカスポーツ医学会は50%から85%の範囲を推奨しています)。
すなわち、50%の運動強度における目標心拍数を算出したいときは0.5を、85%の強度で算出したいときは0.85を入れます。
0.4~0.6が中強度、0.6~0.85が高強度の目安です。運動経験の浅い方はなるべく小さい数値から始めましょう。
以上、各数値を式に入れて計算することで、任意の強度で運動を行うとき、目標にすべき心拍数が算出されます。
ここで、ひとつ例をあげてみましょう。
名前はAさん。年齢30歳、安静時心拍数60回/分、目標とする運動強度は50%とします。
すると式は以下のようになります。
{(220-30)-60}×0.5+60
=130×0.5+60
=125
すなわち、Aさんは心拍数125回/分となるようにウォーキングやジョギングをすれば、それが50%程度の運動強度(中強度の有酸素運動)となるわけです。
理想を言えば、常にターゲット心拍数を維持しながら運動をしたいので、それこそ精度の確かなデバイスを利用して、リアルタイムで脈拍をモニターしたいところです。
しかし、ある程度精度の高いデバイスとなると、案の定と言いますか、金額も高くなります。ですので、購入の判断は読者の皆様にお任せします。
デバイスが無い場合、代替手段として以下の方法で実施してください。
まず、ある一定のペースで5から10分間の有酸素運動を行います。時間になったら一旦運動を中断し、上述した方法で脈拍をカウントしてみましょう。
ここで目標心拍数になっていれば、そのペースを維持して運動を継続してください。目標から乖離しているようであれば、ペースを調整して再度5から10分間の運動を行い、再測定を行います。
以上のようにして目標心拍数に近づけていけば、運動強度を調整することができます。
もし、「一度運動を始めたら、最後まで中断はしたくない」という方がおられる場合、有酸素運動終了直後に、上述した方法にて脈をカウントしてください。ここで目標値付近となっていれば概ねOKです(ラストスパートだけ頑張って心拍数を上げる等の裏技はNGですが)。
目標から乖離していた場合は、次回以降、ペースを調整するようにしてください。
疲労感を参考にする方法
さて、可能であれば以上の数式を利用して、客観的な数値で運動強度を設定したいところなのですが、もっと簡便な方法もあります。
実にシンプルです。
運動中の疲労感を参考にして下さい。
これだけ述べると非科学的とも捉えられるかもしれませんが、ちゃんと根拠はあります。
これは主観的な負担感を数値化する方法であり、自覚的運動強度(RPE:rate of perceived exertion)とよばれます。このときに使用される代表的な評価指標が、表1に示すボルグスケールです2)。
運動中、どれだけの負担感があるのかを、ボルグスケールをもとに数値化します。
RPEと心拍数との間には相関関係が認められており、該当するポイントを10倍した数値が、その時のおよその心拍数となります。
例えば、友人と一緒にウォーキングをしているとしましょう。
軽く汗が滲み、わずかな息切れはあるものの、笑顔で会話が続けられるペースで歩いているとします。
このとき、ボルグスケールでは『11:楽である』に相当し、心拍数は11×10=110(回/分)程度であるということになります。
ただし、負担感と実際の心拍数の関係については、年齢や性別によって個人差があるとされているので、あくまでも推定心拍数であることにご注意ください。
運動強度の判断については、10から13が中強度、14以上で高強度と考えられます。
11(楽である):汗が滲む。軽い息切れ。笑顔で会話ができる。
13(ややきつい):しっかり汗をかく。息切れはあるが、会話はできる。
15(きつい):やめたくなる。息切れにより会話は難しい。
このあたりを判断基準として、有酸素運動に取り組んでみてください。
カルボーネン法とRPEによる強度設定を組み合わせる
心拍センサー付きのデバイスをお持ちでない方に対して、カルボーネン法で算出した目標心拍数に合わせて有酸素運動を実践する方法は、上述した通りです。
その方法に、RPEによる強度設定を組み合わせれば、毎回毎回10分運動して脈をカウントしてみて…などと運動を中断しなくても、ある程度の再現性が保てるようになります。
すなわち、一定のペースで5から10分間の有酸素運動をしたら、その瞬間の息切れの具合や疲労感をしっかり覚えておいて、脈をカウントしてください。
このときに目標心拍数になっていれば、以降は、その息切れ具合や疲労感を目安にして運動に取り組めばよいのです。
ここで、もう一度Aさんに登場してもらいましょう。
年齢30歳、安静時心拍数60回/分であり、強度50%で有酸素運動をする場合、目標心拍数は125回/分でした。
すなわち、ボルグスケールで『12』相当の運動をすれば良さそうだと推測できます。
まずは『11:楽である』と感じられるペースで運動を行い、そこからもうひと踏ん張りしてみるといった具合でしょう。
このときの負担感を覚えておきながら5から10分運動し、脈拍を計ってみます。見事、目標心拍数付近であれば、このペースで運動を継続する。このような流れです。
文章にしてみると、些か長ったらしくて面倒に思えるかもしれません。
ただ、やってみると案外、簡単にできます。
ぜひ、面倒くさがらずに実践してみてください(それでも、可能な限り簡単に済ませたいのであれば、心拍センサーの導入を推奨します。ただし、安物にだけはお気をつけて)。
まとめと注意点
さて、運動を継続していくうちに、今までのペースでは、あまり息が上がらなくなってくる日がくるでしょう。
これはしめたものです。
心肺機能が向上している証拠なので、確実に成果が出ていることになります。
このようなときは、これまでと同様の疲労を感じるレベルまでペースを上げていきましょう。目的次第では、今まで以上の疲労を感じるくらいまで運動強度を上げることも選択肢のひとつです。
本来の目的から逸脱しない範囲で、どんどんチャレンジしてみてください。
最後に注意点をお伝えしておきます。
ペースメーカーを利用している方やβ遮断薬を服用している方は、本来の生理的反応とは異なる形で心拍数をコントロールしていることから、上述したカルボーネン法で運動強度を決定することは危険です。
もちろん、これらを使用している方は、病院あるいはクリニックを受診されていると思います。
どの程度の活動をするべきかは、担当医に相談するようにしましょう。
これに限らず、身体状況に何かしらの不安のある方は、まずは主治医に相談することが最善であることは言うまでもありません。
より健康的な状態を目指すための運動です。運動がきっかけで体調を崩してしまっては本末転倒ですので、この点は慎重にいきましょう。
以上、有酸素運動における強度設定についてご紹介しました。
皆様がよりウェルネスな生活を営めるよう、少しでも参考になれば幸いです。
参考文献
1)市橋憲明:運動療法学第2版,文光堂,東京,120,2014
2)NPO法人日本トレーニング指導者協会:トレーニング指導者テキスト実践編,大修館書店,東京,71,2009
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